日本を取り巻く安全保障環境と日本国内にみるSDGs

 今日、世界を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している。

 グローバルなパワーバランスの急激な変化、テロ・サイバーなどの新たな脅威の出現、厳しいアジア太平洋地域の安全保障環境。また、日本の近隣諸国を見渡せば、北朝鮮の核・ミサイル開発、中国による軍事力の広範かつ急速な変化、そしてロシアによるウクライナ侵攻など、まさに日本を取り巻く安全保障環境は戦後最大の難局に直面しているといっても過言ではない。

 一方、国連は2030年を達成年限とし「SDGs(Sustainable Development Goals):持続可能な開発目標」を2015年9月の国連サミットにおいて193の加盟国で合意した。これは、持続可能でよりよい社会の実現を目指す世界共通の目標とされ、SDGsの前身であった「MDGs(Millennium Development Goals):ミレニアム開発目標)が主として発展途上国向けのそれであったのに対し、SDGsは先進国も含め加盟した全ての国を対象に、各国政府、民間企業や地方自治体、更には個々人の行動を求める未来のための青写真ともいえる。

 わが国においても政府をはじめ、各企業や団体などがSDGsの一環として様々な取り組みを始めた。2020年7月にはレジ袋が有料化となり、スーパー等での買い物にはマイバッグを持参する人が多くなった。これも海洋汚染の原因のひとつとされるプラスチックを削減し≪海の豊さを守ろう≫というSDGsの目標のひとつの対し、日本政府が取り組んだものである。2021年にはSDGsが流行語大賞にノミネートされ、民間企業のCSR情報やメディア広告、多くのマスメディアで目にするようになった。

しかし、そんなSDGsが単なるビジネスやマーケティングの具として利用され、その理念や成り立ちなどはお構いなしに一人歩きしているような印象を受ける側面もある。事実、環境に配慮していることが企業ブランド、商品イメージを向上させることを逆手にとり、SDGsに取り組んでいるようかのように見せかけるだけの実態が全く伴っていない状態や行動を揶揄する≪SDGsウォッシュ≫という言葉も目にするようになった。あえて言い換えれば「耳当たりが良く、誰もが手放しで大賛成してくれる(反対しづらい)美しいスローガン」という側面を持つのがわが国におけるSDGsの実態なのかもしれない。 ここで、SDGsが唱える17の目標を改めて見てみたい。

目標1あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
目標2飢餓を終わらせ、食糧安全保障および栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
目標3あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
目標4すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し生涯学習の機会を促進する
目標5ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児の能力強化を行う
目標6すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
目標7すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
目標8包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
目標9強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
目標10各国内および各国間の不平等を是正する
目標11包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市および人間居住を実現する
目標12持続可能な生産消費形態を確保する
目標13気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
目標14持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
目標15陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、並びに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
目標16持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
目標17持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

 こうしてみると、SDGsの達成は国家のみならず、世界の安定と平和を支える根本的な基盤となりうる。しかしその一方、その達成はほぼ不可能に近く、いわゆる絵に描いた餅のように感じる人も少なくないのではないか。

日本国内を見れば政府機関やマスメディアが「SDGsは素晴らしい理念です!みんなで協力しましょう!」と盛んに呼びかけている。国連機関であるSDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)が毎年発表しているSDGs達成度ランキングでは日本は2023年時点で166カ国中21位となっている。同レポートによると日本が「達成済み」と評価されている項目は目標17項目のうち2項目のみとなっており、その他の15項目については「課題が残る」=5項目、「重要な課題がある」=5項目、「深刻な課題がある」=5項目であり、その内訳は以下のようになっている。

達成済み

目標4すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し生涯学習の機会を促進する
目標9強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る

課題が残る

目標1あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
目標3あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
目標6すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
目標11包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市および人間居住を実現する
目標16持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する

重要な課題がある

目標2飢餓を終わらせ、食糧安全保障および栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
目標7すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
目標8包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
目標10各国内および各国間の不平等を是正する
目標17持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する

深刻な課題がある

目標5ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児の能力強化を行う
目標12持続可能な生産消費形態を確保する
目標13気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
目標14持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
目標15陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、並びに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する

このようにしてみると、日本のSDGsにおける進捗状況は世界的に見れば比較的上位にはあるものの、まだまだ多くの課題を抱えていることがわかる。

しかし、これらの課題を克服し、またその過程において、より良い未来を築いていくために最も無視できないのが今般の日本を取り巻く安全保障環境であり、それはまさしくSDGsが掲げる未来とは正反対へ向かっていると言わざるを得ない。

 2022年2月24日、ロシアはウクライナへの本格的な軍事侵攻を開始した。そして今も尚、無辜の民に多くの死傷者を出す攻撃を行い、病院、学校、住宅などへも被害を与えている。

 かたや中国は、2023年4月8日から10日にかけて台湾周辺の海・空域にて二度目の軍事演習を実施するなど、東シナ海、南シナ海などにおける力による一方的な現状変更の試みを強化し、我が国の安全保障に影響を及ぼす軍事活動を拡大・活発化させている。

 また、北朝鮮をみると米国の対北姿勢を批判しながら、「自衛的」な権利として核武力をはじめとする軍事力強化への意思を表明し続けている。近年は、かつてない高頻度で弾道ミサイル等の発射を繰り返しており、今後も核を含む軍事力の拡大・強化路線を突き進んでいくことは疑う余地がない。2006年以降の6回の核実験に加え、核兵器の運搬手段たる弾道ミサイルの発射を繰り返し、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発及び運用能力の向上を図ってきている。

そんな緊迫した近隣諸国の情勢がある中、国内だけに目をやり「地球を守るために政府、企業、国民が一丸となって取り組むべきだ」といわば盲目的にSDGsの推進だけをファッション的に拡散し「耳当たりが良く、誰もが手放しで大賛成してくれる(反対しづらい)美しいスローガン」を振りかざすことは極めて視野の狭い危険な発想であると言わざるを得ない。

日本の行く末を考える上で今最も目を向けなければならないのは、近隣諸国の現状、動向、その脅威である。ここから目を背けていては、日本に持続可能な社会などは訪れることはない。むしろいつまで目を背けることができるか、といったほうが正しいのかもしれない。SDGs推進を否定するわけではない、が、それを本末転倒なものにしないためにも政府、企業、マスメディアだけでなく個々人が、この脅威とも言うべき今の安全保障環境と向き合わなければならない時期が既に訪れている。

橋谷田 洋介

参考文献

環境省 持続可能な開発目標(SDGs)の推進

https://www.env.go.jp/policy/sdgs

環境省 持続可能な開発のための2030アジェンダ/SDGs

https://www.env.go.jp/earth/sdgs/index.html

【SDGs達成度ランキング】日本、2023年は世界21位に後退 気候変動対策など最低評価

2023年6月21日

https://www.asahi.com/sdgs/article/14937675

BBC NEWS JAPAN 中国、空母も参加し台湾を「封鎖」 軍事演習の最終日

2023年4月11日

https://www.bbc.com/japanese/65236581

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